仁②
仁の足取りは軽やかだった。
釣銭を渡す時の堂盛子はどこか恥ずかしそうで、なんとなく自分に好意を抱いてくれているように感じた。触れるか触れないかの彼女の手が、何よりも愛おしく、そして儚くて。
例えば釣銭を間違えたと追い掛けて来ないか、或いは別の日に駅前のスーパーでばったり出くわさないか、そんなことを思い耽けていたから、帰路はあっという間だった。
気付くと曇天は消え去り、月夜の明かりが仁の明日を照らしているように感じた。
─ 堂さん、、か。
玄関のドアノブに右手を掛け、
左手でスマートフォンをポケットから取り出して時刻を確認する。
21:58
予定通り間に合った。あれ?
仁はLINEが届いている事に気が付いた。
こんな時間に誰だろう
しかしその場でLINEは開かなかった。仁は気怠いことを後回しにしてしまう性格で、無意識的にこのLINEが煩わしい知らせである事に薄々勘付いていたからだ。
手洗いうがいを早々に済ませ、自室へ向かう。
エナジードリンクと気乗りしない想いを抱えて。
『仁くん、遅くにごめんね。
美緒のことだけど、容態が思わしくないみたい。
今すぐにどうって話じゃないけど、』
中途半端に途切れたLINEと、その1分後に
『あぁ。そうは言っても心配には及ばないよ。
そんな深刻な状況ではないからね。また連絡します。』
という趣旨のメッセージが届いていた。